ビジネスプロセスアウトソーシング コンサルティング

 

 

私が、ビジネス・プロセスアウトソーシング(BPO)のビジネスに積極的に係る様になったのは、2007年から、2014年まで7年半、そのBPOサービスを日本のお客様に提供してきました。 この書はその経験に基づき、企業の経営者及び管理者に成功と失敗を対比しながら、その勘所を伝えたいと思います。

 2000年の初めのころは、コールセンター業務のアウトソーシングが華やかになっていました。 理由は、お客様の問い合わせ、すなわち、アフターサービスの一環として、一度に大きなオペレーション・センターを立ち上げるため、外部のサービス会社を使わざるを得ない状況が加速度的に増加したのです。また、対顧客が日本人であり、おのずと日本人のオペレーターを必要とし、海外のリソースを使うことは、まれでありました。 このカスタマー・ケア・マネージメント(CRM)エリアのBPOは、国内の賃金の安い地域で、しかも比較的人材調達のしやすい地域に築かれ、しばらくは、人材の定着も良かったと思われます。従って、この時期には、大きな失敗はなかったのです。 このコールセンター業務も、顧客の問い合わせに対応するインバウンドサービスから、徐々に、顧客にセールス活動するアウトバウンドサービスが活発になりました。 インターネットの普及もあり、より高度なマーケティングセールスが可能になったのです。このアウトバウンド業務において、自社社員は数名で、ほとんどが派遣社員で、業務の適正に会った人材のみ定着する厳しい、不人気な業務であります。

 BPOというアウトソーシンング業務には、このCRM業務以外に、人事業務、経理業務、購買業務、更に営業支援業務等がありますが、 CRM業務のアウトソーシングのようなスピードで、業務の外注化は進みませんでした。 その理由ひとつに、CRM業務の様な新規業務ではないこと、また、社員に不人気な業務でないことが挙げられます。 人事業務、経理業務、購買業務については、何れも、現場社員は、業務が複雑で、教えるのが難しい為、簡単に業務移管できないのです。 従って、業務移管には、多くのコストが掛かること、現業を抱えながら業務を教えることが出来ないこと…等々、 そのため、永年その業務を行ってきた人にとって、手放す気になれないことが、根本的な阻害要因になっています。

 2000年前後5年くらいの間に、ITアウトソーシングにも多くの企業が着手し、更に製造業においては、製造のアウトソーシングにも構造改革の手を入れました。

この外注化、すなわちアウトソーシングは、企業目的として、長期にわたるコストダウンとノンコア業務のリソースのオフバランスをもたらすことでした。 2000年初めのアウトソーシング戦略は正しかったかというと、実際早くからこの戦略に着手した企業が、その効果を得られ、今日に至っていることから正しかったと考えられます。

 有名なGEのCEOを務めた ジャック ウェルチの経営戦略の一つに、 70:70の方針(施策)があります。 企業の業務を100として、30は自社社員で、残り70は、 外部に委託すること、更に、その外部委託する業務の70は、企業の指定した取引先に、すなわち全体の49は、企業が選定した取引先を使うと言うことです。 残りの30は、部門がかなり自由に選択できるものの、外部に委託することが明確になっています。

 単純なシミュレーシとして、社員の年収840万(月60万+賞与) とし、 外注年間費用を420万/人 (月35万)とすると、70%の要員のコストが半減して、35%のコスト削減になります。 すなわち、企業として人件費削減目標値35%を達成することになります。

 

 最近のBPOのコスト削減においては、相対的に人件費が上がって来ていること、特にオフシェアとして、円高時には大きなメリットがあったものの、円安が進むにつれ国内のニアショアの低い賃金の人材活用が視野に入りつつあります。 BPOのコスト削減効果は、人件費の差以外に、場所、ネットワーク、IT機器等の費用、派遣社員を管理する業務管理者の費用、社内では、一般的に目標値を設定していないが、品質/生産性目標による管理があります。 さらに、日本の企業の一番弱い点である内部統制の仕組みと管理、採用研修の費用、休暇/代行の管理があります。 最近では、 ビジネス・コンティニュイティ ・プランとしては、離れた拠点でのオペレーション センターの確保等多くのメリットがあります。人事、経理、購買、営業支援等を、社内ローテーション、または、新人採用で人件費を抑える手立てとして、 属人的オペレーション(非マニュアル化)、生産性目標、品質規定を持たない組織での効率化には、自ずと限界があるとみて良いと思いす。

 BPO – ビジネス・プロセス・アウトソーシングの詳細は、 後段に委ねるとして、 企業としてノンコア業務 (私は、やり方はあるものの、コア業務でもアウトソース可能と思います。) のプロセスの最適化,要員投入コストの設定、システム化の評価/投資余力の設計図を描いたい上で、企業として余力がある時期に、アウトソーシングの導入をすべきだと考えます。

 悪い例として、企業成長の鈍化、収益の落ち込み、投資余力の減少、人材再配置力の低下、人材再教育の遅れ、プロセス最適化に伴うシステム改造費用の削減等々、 いわゆる企業が負のスパイラルに落ちいった時には、時すでに遅し、経営の厖大な努力が必要となります。

 

BPOのコスト意識の持ち方

一般企業を例にとって、コストのシミュレーションを考えてみます。まず、社員月給60万+賞与で年俸840万として、作業時間は月153時間 (7.65時間/日×20日)となり、年間1,836時間 → 6,609,600秒。 年俸840万を秒単位に換算すると 1.27円/秒 → 76円/分 → 4,570円/時 → 34,991円/日 となります。 会社として、そのほか 場所、IT機器ほか もろもろ+35%程度の経費が必要です。 とすると、1.71/秒 → 96.5円/分 → 5,808円/時 → 44,438円/日 → 888,771/月・・・。 この労務費の感覚が重要です。

 例えば、経理の請求書チェックを見てみると、普通は請求書のチェック項目は14項目程度あり、ダブルチェックを必須とすると、すぐに、3分、5分の処理時間がかかります。それに、不備があるとすぐに10分、15分という処理時間が掛かる様になります。 この様に、通常3分の処理が10分掛かるような不備があったとすると、経理部門のみで、7分/件の無駄な時間、 すなわち、96.5円×7分=675.5円の無駄遣いをすることになります。 

更に、月間3000件の請求書チェックがあり、10%の不備で、300件/月、それに7分の不備による処理時間が掛かったとなると、300件×7分×96.5円/月=202,650円 もの無駄な費用を掛けてしまいます。 または、単純に3分/件の処理を2分40秒/件に短縮すると、 月間3000件×20秒×12か月×1.27円/秒=914,400円/年 と言う具合に、無駄なコストを削減できるのです。

 私の経験した人事プロジェクトでは、約0.7FTE (Full Time Equibalent 153時間/月) 107時間の削減が達成できました、これは、23項目の改善により削減出来たのです。 

つまり、153時間×0.7×5,808円/時×12か月=7,464,441円のコスト削減です。

「え、たった750万円?」 ではないのです。 営業利益率1%、2%、3%と言う規模の企業であれば、7.47億~22億もの売り上げ増と同じことが、経営上の数字として、議論されることになるのです。 しかし、現場の管理者には、この生産性によるコスト削減効果が売上高レベルで考える人がほとんどいないという、悲しい企業環境にあるのです。

更に、生産性に関して、事例で説明しましょう。

かなり企業規模の大きな会社で、 人事の海外勤務にかかわる業務を、19名の社員および派遣社員ですべての作業をしているのですが、もちろん業務のピーク時には、更に、臨時の派遣社員を雇う仕組みになっています。 この業務を移管するために、業務の作業レベルを3段階まで階層化、詳細化して、社員と派遣社員のアクティビティを、簡単な計測ツールで2週間集計してみました。 すると何んと、実作業稼働率が約50%と、半分は休息か、アイドル状態という有様でした。 諸兄も、現場で作業している人達をみて、実稼働率はどの位と考えられることがありますか? 組織があって、何の作業の計測もされず、誰の指摘もないまま、要員をはって作業している。…ということはないことを願っています。 一般的には、 ABC(Activity Based Costing)なるコンサルティング手法で業務の分析と効率化を求めることとなります。

 

 

多くの企業で、業務改善を常に企業の標語として挙げられていますが、その目標は、業務品質の向上、業務の生産性の向上であって、 結果としてより競争力のあるサービスや、製品を提供することで、顧客へのサービス向上、満足度の向上が達成できるからです。では、その業務品質は、何によって大きく向上するのでしょうか? それは、業務プロセスが簡素化、標準化され、多くの処理がコンピューター化されることにより、人の介入が極端に少なくなり、業務処理コストも安く、人的ミスがなくなることが、理想と言えます。 

 

 ここでは、人事、経理、購買、カスタマー・ケア、営業支援の各々の業務の現実と課題を例に挙げて紹介したいと思います。

 

まずは、人事業務から。 そのプロセスは、 ① 採用 ② 勤怠管理、給与と社会保険 ③ 福利厚生と安全衛生 ④ 人材育成、教育、研修があり、それぞれのプロセスは、決められた人事制度及び労務法規とその人事関連規定に基づいて、マユアル化されています。 多くの企業では、 その人事制度、規定は長い年月を経て築かれたもので、 外的な圧力、税制制度をはじめとして法、制度の変更がない限り、永遠と続きます。 特に、労働組合との協議が必要な規定も多々あり、その変更に消極的なのが実態です。 また、人事業務のシステムも、 最近ではERPのパッケージを導入し、かなりのプロセスの処理がコンピュータ化されてはいるものの、各企業で、独自の人事レポートを作成したり、カストマイズされシステム化されているプロセスもあれば、データをシステムから出力し、Excel,Access等で、人事システムとは別に業務を行っているケースが、ほとんどを占めています。 また、人事システムを取り巻くサブ・システムは、勤怠管理、社宅関連、銀行とのデータ連携、社会保険…など、10~15種類あるのが、一般的です。

 このことが意味するところは、プロセスの簡素化、標準化をしようとすると、システム変更の影響が多くのサブシステムにも及ぶということです。 例として、勤怠管理のデータを、社員一人ひとりExcelに記入し、上司にそのExcelを添付し、承認依頼のメールを出し、(又は、Excelを印刷して)承認を得ます。その結果を上司は、人事のバックオフィス部門に送付し、後続の給与処理に繋げます。しかし、 社員と上司、上司と人事バックオフィス部門で、チェック不具合を見つけると、メールでの修正のやり取りが始まります。 それも、月初めの1~3日間程度で修正を確定しなければなりません。これを、解決するのは、ワークフローの導入です。 最近では、いつでも、どこでものモバイル機器、スマートフォンとかタブレットで勤怠データをアップし、その上司は部下の申告を一覧表でチェックし、承認/不承認を判断し、次の処理に瞬時に移れるのです。 社員も不承認に対し、即刻修正申告ができるのです。 これにより、大幅な時間短縮ができ、また、人事バックオフィスもデータのチェックに余裕ができ、より正確なデータ投入がされ、 期限までに社員の給与に反映されることになります。

 このワークフローは、システムとして提供されるので、社員の勤務タイプにより入力項目、制限等をシステムが自動的に判断することが可能になります。 すなわち、人的介入の削減に繋がります。

 最近では、スマートフォンでの勤怠入力のサービルも出回っており、一人当たり月300円とかの低額なサービスもあります。

 

 次に、 人事業務のプロセス改善で、社員にとって簡素化して欲しい業務がありあす。 例えば、赴任の場合、勤務地によって居住地を変えなければないケースが多いですが、 この時、赴任申請、通勤手当申請、住所変更、また、社宅、借り上げ社宅申請等々、多くの書類を手書きで記入。 慣れない赴任の書類であれば、 人事バックオフィスへの問い合わせしその記入方法を確認して申請することになります。 この時にも、何度も、氏名、社員番号、部門名、部門コード、生年月日、家族構成などを記入しなければなりません。 人事の各種申請は、イベントに基づいて作られているのではなく、各変更について、申請書類が用意されているからです

 この解決策も、ワークフローでイベントを選択する方法です。 例えば、赴任とか、結婚とか、家族構成変更(扶養家族)とかをもとに、必要な申請フォームが自動的表示にされ、先程の氏名、社員コード等は、一度社員コードを入れるだけで、 全て必要な情報が人事システムから入力され、変更の情報のみ入力するだけで良いのです。 上司、関係部門、または外部の住宅(社宅、借り上げ社宅)の協定先に必要な情報が提供されるように、大きくプロセスが変更されると同時に、仕組みが簡素化されます。

 このワークフロー・システムは、既存の人事システムと連結するシステムで、大きな投資の必要ありません。 昨今では、 スマートフォンとクラウドを使った安価なサービスが、受けられる時代になっています。

 研修に関しても、コースの開発、受講者募集、コース運営などがあります。 特に、受講者募集では、コースの内容、開催日、クラス、受講者の前提条件等、受講者のコース選択が容易にできる情報提供が不可欠です。 また、希望のコースが見つかったとし、その受講予約、変更等を、いつでも、どこでも可能なモバイル機器が使え、上司の承認もワークフローで簡単に処理ができることがベストです。 多くの企業では、この研修オペレーションだけで、 メールのやり取りで、本人の出欠確認をするとか、大変な手間暇をかけて処理いるのが現状です。

 福利厚生、これ程複雑で多岐に渡った業務は少ないと思いますが、 多段階の条件判断で処理が多分岐するマニュアル作成も、また人事バックオフィスで処理するオペレーションの方も、長い経験を必要とします。 また、例外的処理が多い業務の為、過去の事例を探すという非効率極まりない作業が増えます。 日本の企業の特徴でもある手厚い福利厚生が重荷となってきた昨今,更に、人材の永年勤続が崩れて来た今は、より福利厚生のプロセスを簡素化、標準化(例外処理の中止)し、イントラネットのポータル・サービルでの申請の一本化を計ることが求められているのです。

 人事の業務処理の中で、バックオフィスの処理に時間が掛かると同時に 、エラーも散見されるのが、この福利厚生業務です。 この解決策も、社員の立場に立ったイベントに基づく各種申請処理を、統一していくことが好ましく、やはりワークフローによる多段階条件判断ツリーを実現し、一度に必要な申請が済むようにワークフローシステムを導入することが必要です。